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名古屋地方裁判所 昭和42年(行ウ)18号 判決

名古屋市熱田区横田町一丁目五八番地

原告

百合草光男

右訴訟代理人弁護士

佐治良三

後藤昭樹

服部豊

右訴訟復代理人弁護士

水野正信

楠田堯爾

同市同区花表町一丁目地先

被告

熱田税務署長 浜野律治

右指定代理人

服部勝彦

大榎春雄

高橋健吉

酒井常雄

右当事者間の所得税更正通知等取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が原告の昭和三九年分の所得税につき昭和四〇年六月二九日付でなした更正処分および過少申告加算税の賦課決定(但し昭和四〇年一〇月二六日の異議申立決定額)のうち総所得金額二五八万六四〇九円を超える部分に対する処分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

事実

第一、申立

(原告の求める裁判)

被告が原告に対し、

(一)  原告の昭和三七年分所得税につき、昭和四〇年一〇月二八日付でなした総所得金額を一五五万二五六〇円、所得税額を二二万四、二五〇円と更正した処分並びに過少申告加算税一万三五〇円を賦課した処分

(二)  原告の昭和三八年分所得税につき、昭和四〇年一〇月二八日付でなした総所得金額を一六四万九四九四円、所得税額を二四万一〇円と更正した処分並びに過少申告加算税一万一、〇〇〇円を賦課した処分

(三)  原告の昭和三九年分所得税につき、昭和四〇年六月二九日付でなした総所得金額を二九三万五、二〇〇円、所得税額を六四万一、三五〇円と更正し、過少申告加算税二万八、四五〇円を賦課した(但しいずれも昭和四〇年一〇月二六日の異議申立決定によつて一部取消された後の金額)処分はいずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告の求める裁判)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、主張

(請求原因)

一、原告は名古屋市熱田区旗屋町一五九番地において、昭和三三年一二月八日より昭和四〇年四月一一日まで、雪印牛乳南部販売店なる商号で、牛乳および乳製品の販売業を営んでいたものである。

二、原告は昭和三七年分所得税について昭和三八年三月一四日、昭和三八年分について昭和三九年三月一六日、昭和三九年分について昭和四〇年三月一五日、それぞれ別表(一)のとおり確定申告をなした。

三、ところが、被告は昭和三九年分については昭和四〇年六月二九日、昭和三七年、三八年分については昭和四〇年一〇月二八日それぞれ別表(二)のとおり更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分をなした。

四、そこで原告は右処分を不服として、昭和三九年分について昭和四〇年七月二九日、昭和三七年、三八年分について昭和四〇年一一月二五日被告に対しそれぞれ異議申立をなした。

五、被告は昭和四〇年一〇月二六日、昭和三九年分につき別表(二)異議申立決定額欄記載のとおり一部取消す決定をなし、昭和三七年三八年分については昭和四一年二月二三日異議申立を棄却する決定をなした。

六、更に原告は昭和三九年分については昭和四〇年一一月二四日、昭和三七年、三八年分については昭和四一年三月一八日それぞれ訴外名古屋国税局長に審査請求をなした。

七、しかし同局長は昭和四二年二月二日右審査請求をいずれも棄却する裁決をなし、同月三日原告に通知した。

八、しかしながら、被告のなした各処分は過大認定の違法があるのでこれが取消を求める。

(被告の答弁)

請求原因のうち第一項ないし第七項記載の事実は認めるが第八項は争う。

(被告の主張)

一、昭和三九年分について

原告の確定申告について被告が調査したところ、原告が帳簿に基づいて算出したと主張する売上金額はあらゆる点で不合理と認められることが多く、とうていこれを真の売上金額と認めることはできなかつた。そこで被告は原告保存にかかる帳簿書類、取引資料等の資料から推計したところにより、次表の如く事業所得額を算定したのである。

事業所得金額明細表

科目 金額

(一) 総収入金額 四六、九一五、三六六円

(二) 必要経費 四三、九〇九、三七七円

内訳

売上原価 三九、一九六、三一四円

公租公課 五七、五二〇円

光熱費 二六四、一九〇円

旅費通信費 六一、二一四円

広告宣伝費 四七、五〇〇円

接待交際費 一七九、五二〇円

修繕費 三三九、六〇一円

消耗品費 八七、六二五円

福利厚生費 一四七、二一九円

減価償却費 三二一、七一五円

雑費 三一〇、五七九円

容器及びあつせん物資費 一六二、六〇一円

雇人費 二、三五三、九一三円

地代家賃 三六九、〇〇〇円

借入金利子割引料 一〇、八六六円

(三) 事業所得金額(一)~(二) 三、〇〇五、九八九円

なお地代家賃の明細は次の通りである。

本店店舗 二八万五、〇〇〇円(但し一~三月月額二万円、四~一二月月額二万五、〇〇〇円)

車庫 八万四、〇〇〇円(月額七、〇〇〇円)

計 三六万九、〇〇〇円

また減価償却費の明細は次表の通りである。

〈省略〉

二、昭和三七年、三八年分について

(一) 原告の確定申告に基づいて被告が調査したところ、原告は帳簿書類その他所得金額計算の基礎となるべき資料を充分保存しておらず、また原告に営業内容の説明を求めても何ら具体的な説明を得ることができなかつたので、その営業所得金額は推計により算出せざるをえなかつた。

(二) ところで、原告の営業内容は牛乳の小売および卸売であり、更にこの卸売は通常の卸売と原告が支店と称する北部支店等五店に対する通常より薄利の大口卸売とに区分され係争三カ年間を通じ原告の営業形態に質的な差異はなかつた。ところで右両年度の所得についての被告の調査によつても原告の小売と卸売との割合、右大口卸売の同業者における売買差益率、算出所得率および所得率(以下「各比率」という)等は判明しなかつた。

(三) そして一般に仕入金額および調査年分の前年あるいは翌年における調査対象者の右各比率が判明している場合において調査年分の売上金額或いは事業所得金額等を推計する場合仕入金額と共にその推計の基礎となすべき右各比率は右前年或いは翌年の各比率と原告の同業者の調査年分の各比率とのいずれかによるものと考えられるが、本件の場合は被告の調査によるも後者の方法をとるための必要な資料が収集できなかつたため、前者すなわち原告の昭和三九年分の所得率(売上高で事業所得額を除してえた割合)および算出所得率(売上高で算出所得額〔売上高から特別経費以外の必要経費を控除した額〕を除してえた割合)に基づいて次表のとおり事業所得金額を算出したのである。

事業所得金額計算表

〈省略〉

三、従つて右の範囲内でなされた本件各処分には何らの違法もない。

(原告の答弁および主張)

一、昭和三九年分について

被告主張の事業所得金額明細表のうち(二)必要経費項目中の減価償却費、雇人費、地代家賃の額は争うが、その余は認める。但し被告主張の減価償却費は明細表のうち二(一)の電気冷蔵庫を除き他は認める。

(一) 地代家賃について

原告の同年中の地代家賃は五一万八、〇〇〇円である。すなわち被告は本店店舗の家賃が四月から増額されたものと認定しているが、右増額がなされたのは三月であるから右差額五、〇〇〇円と原告が訴外長屋よねから賃借している北部支店の賃料(年額一四万四、〇〇〇円)の計一四万九、〇〇〇円が被告の認めた三六万九、〇〇〇円に追加さるべきである。

(二) 雇人費について

原告は雇人に対し給料として総額二三五万三、九一三円を支払つたが、その他に雇人の食事費の補助金として次表の如く合計一六万六、五〇〇円を支出しているのである。しかして、右食事費補助金は当然雇人費に算入されるべきものであるから、雇人費は総計二五二万〇、四一三円と認められるべきである。

〈省略〉

合計 一六六、五〇〇円

(三) 減価償却費について

原告は昭和三七年四月二〇日普通乗用車(コロナ)を代金七二万四、〇〇〇円で取得使用していたから、これの減価償却費(耐用年数六年)一〇万八、六〇〇円が追加されるべきである。

また、減価償却費明細表二(一)電気冷蔵庫は業界においてショーケースと称されているもので、乳製品メーカー(雪印乳業株式会社)より原告に対し原告の得意先である小売店に備置するために提供されるものであつて原告の資産に計上されるべきものではない。原告は乳製品メーカーに対し電気冷蔵庫の代金一部負担或いは賃借料の名義で金員を支払つているから、その金額を必要経費として計上せらるべきである。

二、昭和三七年、三八年分所得について

(一) 営業所得金額計算表のうち右両年分の売上高は認めるが、その余は争う。

(二) 被告は、原告の昭和三九年分の所得率、算出所得率を基礎にして三七年、三八年分の事業所得金額を算出しているが右算出方法は長期にわたつてほぼ同一規模の営業が継続している場合には妥当しうるが原告の如き場合には妥当しないものである。すなわち、原告は本件営業を昭和三三年に開始したものであり、その総収入金額を比較しても昭和三七年分三、一七〇万五、一七七円、昭和三八年分三、三四六万八、二二七円に比し昭和三九年分は四、六九一万五、三六六円となつており昭和三八年の分の三九パーセントの増加になつている。従つて、原告の如き業種において右の如く著しく収入額が増加した場合における所得率、算出所得率を基礎として前年度前々年度の事業所得額を算出する何らの合理的根拠もない。また、営業継続年数の増加により営業経験の蓄積によつて経費も当然減少するのであるから、右の見地からも被告の事業所得額算出方法は理由がない。

(被告の反論)

一、地代家賃について

原告の本店の家賃が二万円から二万五、〇〇〇円に増額されたのは昭和三九年四月からである。すなわち原告は昭和三九年三月まで原告の店舗をその賃借人山下鉄夫より月額二万円で転借していたが同年四月より右店舗の所有者訴外株式会社安部耕商店より月額二万五、〇〇〇円で直接賃借することになつたのである。また原告の北部支店は昭和三九年当時原告の卸売先である訴外高橋利昭の経営にかかるものであつて、原告は右高橋の牛乳小売業の開業に際しこれを助成する意味で右店舗の家賃を昭和三七年一二月分から昭和三八年一一月分まで負担していたが昭和三八年一二月分以降は右高橋自身が賃料を支払つており昭和三九年分の北部支店の賃料を原告が支払つた事実はない。

二、雇人費について

原告は食事費補助金一六万六、五〇〇円については被告の原処分の調査時においても、異議申立時、審査請求時においても何ら申立てず、また原告備付の現金出納帳にも右補助金の記載は全くなかつたものである。

三、減価償却費について

原告の主張事実は否認する。

第三、証拠

(原告)

甲第一、第二号証の各一ないし三、第三第四号証、第五号証の一、二を提出し証人比田庄三の証言および原告本人尋問の結果を援用し乙第一号証添付の公正証書の成立は認めるがその余の成立は不知、第二第三号証、第七号証の成立は不知、その余の乙各号証の成立は認めると述べた。

(被告)

乙第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第六、第七号証を提出し、証人大須賀俊彦、同生田勇、同西井光郎の各証言を援用し甲第五号証の一、二の成立は不知その余の甲各号証の成立は認めると述べた。

理由

一、請求原因第一項ないし第七項記載の経緯で原告主張の如き確定申告、更正処分、異議申立、一部取消および棄却決定、審査請求、棄却の裁決が順次なされたことは当事者間に争いがない。

二、そこで昭和三九年分の所得税について被告のなした処分の当否について判断する。

(一)  原告の昭和三九年分の総収入金額、必要経費のうち売上原価、公租公課、光熱費、旅費通信費、広告宣伝費、接待交際費、修繕費、消耗品費、福利厚生費、雑費、容器およびあつせん物資費、借入金利子、割引料がそれぞれ被告主張の額のとおりであることは当事者間に争いがない。

(二)  地代家賃について

(1)  原告が本店店舗の賃料として昭和三九年一月、二月は月額二万円、同年四月以降一二月までは月額二万五、〇〇〇円を、また車庫の賃料として月額七、〇〇〇円(合計八万四、〇〇〇円)を支払つたことは当事者間に争いがない。

(2)  証人比田庄三の証言により成立を認め得る甲第五号証の一、原告本人尋問の結果および証人大須賀俊彦の証言により成立を認め得る乙第一号証(但し公正証書の部分は成立に争いがない)を綜合すれば、原告は従来本店店舗を訴外山下鉄夫から賃料一カ月二万円で転借していたが、昭和三九年三月一日右店舗の所有者訴外株式会社安部耕商店から直接右店舗を賃借することとなり、賃料を一カ月二万五、〇〇〇円と定めた。ところが右山下鉄夫と安部耕商店との右店舗に対する賃貸借契約の解除が容易に纏らなかつたので、原告は昭和三九年三月二三日山下鉄夫に同年三月分の家賃として金二万五、〇〇〇円を支払つた。山下鉄夫と安部耕商店との間の賃貸借契約解除は同月二五日成立したので、原告は同年四月一日安部耕商店に保証金を差入れ、同月から一カ月二万五、〇〇〇円の賃料を同商店に支払うようになつたことが、それぞれ認められる。

(3)  証人比田庄三の証言により成立を認め得る甲第五号証の一、二によれば原告は昭和三九年の二月二六日、五月一八日、一一月一七日に北部支店の家賃として各金一万二、〇〇〇円を支出していることが認められる。この事実と成立に争いのない乙第六号証および原告本人尋問の結果を綜合すると、原告は北部支店の家賃として昭和三九年の一月から一一月までの間一カ月金一万二、〇〇〇円ずつ、同年一二月金一万五、〇〇〇円をそれぞれ支出していることが認められる。乙第二号証中高橋利昭の供述部分は措信できないし、乙第六号証によるも右認定を覆すに足らない。

(4)  以上認定の事実によると原告が昭和三九年度に支出した家賃は金五二万一、〇〇〇円であることが明らかである。

(三)  雇人費について

原告が雇人に対する給料として二三五万三、九一三円支払つたことは当事者間に争いがない。

右甲第五号証の一、二および原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告は従業員の食費の補助として昭和三九年の二月一二日に二万円、三月九日に一万二、〇〇〇円、四月四日に一万二、〇〇〇円、五月八日に一万八、〇〇〇円、六月六日に一万円、七月八日に一万七、〇〇〇円、八月八日に一万円、九月一〇日に一万三、〇〇〇円、一〇月八日に一万二、〇〇〇円、一一月八日に一万二、〇〇〇円、一二月八日に一万二、〇〇〇円、同月三〇日に一万五、〇〇〇円、合計一六万三、〇〇〇円を支出したことが認められる。証人比田 三の証言および原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない。

右食費補助費は従業員に対する現物給与というべきであるから必要経費である。そして雇人費は以上を合計すれば二五一万六九一三円となることが計算上明らかである。

被告は、右食費補助費について原告は異議申立時にも審査請求時にも何ら触れなかつた旨主張するが、原告が訴願手続において主張しなかつた事実でも、取消訴訟において新たに主張することは妨げないものと解すべきである(最高裁判所昭和二九年一〇月一四日判決。民集八巻一〇号一八五八ページ参照)。

(四)  減価償却費について

電気冷蔵庫を除く他の資産の減価償却費が被告主張額のとおりであることは当事者間に争いがない。

原告は電気冷蔵庫について原告が支出した金を必要経費として計上せられるべきであると主張するが、その金額を認めるに足る証拠はないし、又証人比田庄三の証言によれば電気冷蔵庫はいわゆるシヨーケースではないことが認められるから、被告がこれを資産とし、これに対して減価償却費を計上したことは相当である。

また原告は自家乗用車(コロナ)の減価償却費が加算されるべきだと主張するので判断するに、証人比田庄三の証言、原告本人尋問の結果によれば原告は昭和三七、八年ごろ自家乗用車(コロナ)を七〇万円ほどで購入したこと、原告の営業内容は牛乳の卸売および小売であるため、牛乳がメーカーから直接に小売店に届けられることが多く、そのための打合せ或いは集金に右乗用車を使用していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

してみれば右乗用車は事業所得を生ずべき業務の用に供される資産というべく、従つて減価償却の対象となるべきである。そして購入価格を七〇万円として、減価償却資産の耐用年数等に関する省令に基づき定額法で計算すれば、右乗用車の減価償却費は一〇万四、五八〇円となることが計算上明らかである。

よつて被告認定の減価償却費に右認定の価額を加算すれば減価償却費は四二万六、二九五円となることが計算上明らかである。

(五)  以上認定の事実に基づいて原告の昭和三九年の総所得金額を計算すると、別表(三)記載の如く二五八万六、四〇九円となることが認められる。

してみれば被告が原告の昭和三九年分の所得税につき昭和四〇年六月二九日付でなした更正処分および過少申告加算税の賦課決定(但し昭和四〇年一〇月二六日の異議申立決定額)は、総所得金額二五八万六、四〇九円を超える部分については失当であるというべきである。

三、昭和三七年、三八年分について

(一)  昭和三七年、三八年分の原告の売上高が被告主張額のとおりであることは当事者間に争いがない。

(二)  被告は右両年分の原告の事業所得額を原告の昭和三九年分の所得率、算出所得率より推計することもやむを得なかつたと主張し、一方原告は原告の営業は昭和三九年にその規模が拡大したので昭和三九年分からの右推計は合理的根拠を欠くと主張する。

およそ推計課税が適正であるためには具体的場合における推計が合理的であると共に他に適当な方法がないか或いは他の方法をとりえない事情があることを要するところ、証人西井光郎の証言によつて成立を認め得る乙第七号証、証人生田勇、同西井光郎、同大須賀俊彦の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すれば、原告の確定申告に基づいて被告が調査したが、原告が売上帳等の関係帳簿を充分に保管していなかつたため、結局推計によつて原告の事業所得を算出せざるをえなかつたこと、事業所得金額を推計する場合、同種同規模の他業者の収支から推計する同業者比率と、本人の他年度の収支から推計する他年度比率の二方法があるが、原告の営業内容は大口卸と小売であつて、他に同規模の業者がなかつたため、同業者比率を用いられなかつたこと、原告の営業規模は昭和三九年になつて拡大されたが、昭和三七年、三八年と比べて営業形態に質的な変化はなかつたこと、被告の調査の結果昭和三八年分については原告が雇人費として一五六万三九円、地代家賃として三五万円、借入金利子、割引料として一万八六六円の特別経費を支出したことが認められたので、昭和三九年分の算出所得率(売上高で算出所得額(売上高から特別経費以外の必要経費を控除した額)を除してえた割合)に基づいて、昭和三七年分については右調査によるも特別経費が判明しなかつたため昭和三九年分の所得率(売上高で事業所得額を除して得た割合)に基づいて、それぞれの事業所得金額を算出したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

してみれば、被告は原告の事業所得を算出するのに、原告の昭和三九年分の所得率、算出所得率によるほかやむをえなかつたものであり、また調査の結果判明した資料を最大限に用いて右推計をなしているのであるから、右推計課税は合理的であり何らの違法もない。

そして右所得率が五・五一パーセント、算出所得率が一二・〇一パーセントであることは計算上明らかであるから、右に基づいて事業所得金額を算出すれば次の如くになる。

〈省略〉

してみれば被告の課税処分は右の範囲内でなされたものであるから何ら違法ではない。

四、よつて原告の本訴請求は、被告が原告の昭和三九年分の所得税につき、昭和四〇年六月二九日付でなした更正処分および過少申告加算税の賦課決定(但し昭和四〇年一〇月二六日の異議申立決定額)のうち総所得金額二五八万六、四〇九円を超える部分につき、処分の取消を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本重美 裁判官 上野精 裁判官 将積良子)

別表(一) 確定申告

〈省略〉

別表(二) 更正処分等

〈省略〉

別表(三) 昭和三九年分所得金額

〈省略〉

以上

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